講演記録目次 2006~2010

講演報告

回数・年月 テーマ
 第51回:2010年10月16日  イノベーションとリーダーシップ
第42回:2009年12月19 ノーベル賞受賞に見る創造性とリーダーシップ
日本未来学会:2009年6月20日 変革とリーダーシップ テープ起こし

第36回:2009年5月16

変革とリーダーシップ

第32回:2009年1月17日

どっちリーダーシップ

第27回:2008年7月26日

リーダーシップとグローバル的視点

ws:2008年11月19日

リーダーシップゲーム研修

ws:2008年6月12日

リーダーシップ講座

第20回:2007年10月27

[企業倫理」-リーダーシッ プ研究大学院の授業風景

第17回:2007年7月28日 

倫理新時代の到来とリー ダーシップ

第13回:2007年3月24日

ソクラテスのダブル・バインド と色即是空 

第6回:2006年7月1日

”「人を動かすリーダーシッ プ」2” -その理論と実践- 

第4回:2006年4月22日

"「人を動かすリーダーシッ プ」"-その理論と実践ー

ws:2006年2月21日 

人を動かすリーダーシップ

ws:2006年2月12日

人を動かすコツを教えます
回数 内容
 第51回  一昨年のリーマンショック以来、世界的な不況からの脱却が期待されている。そう云う状況にありながら、一方では人の心を掴んだ商品やサービスを新たに生み出し伸びている企業が多く見られている。これは何故なのか? 単に偶然的な成功例と済ませるのだろうか? 偶々そう云うヒット商品がそれらの会社から生まれただけなのか?

 

今回のマイスターネットの講演は、そう云う事象は社会の変化に上手に対応している会社等から発生しているのではないか、と云う証明になるような内容である。

 

タイトルのイノベーションとリーダーシップ、イノベーションは日本語では改革と云われる。即ち、社会も企業も良いリーダーシップがあって初めて改革が起こせる、と云う事である。イノベーションはまた、従来の歴史的事実に基づく発想、例えば産業革命や情報革命のように技術とか発明によって社会を変える事に留まらず、新しいアイデア、場合によっては奇抜な考え方が加味されて新たな価値を以って社会的に大きな変化を起こす事、とも云われている。

 

具体的に、産業の国際分業化と利益配分について、製品作りを上流工程、中流工程、下流工程に分けた場合、現状はどの様になっているのか、との教示があった。上流工程は、製品コンセプト創造とそれに基づくシステム設計であり、欧米先進国が得意としている。一例を挙げれば、スティーブ・ジョブス率いるアップル社のiPadの熱狂的な社会での反応がある。この工程は全体工程の中での利益配分としては、大きく上昇している。次の中流工程は物づくりであり生産ラインの部分であり、ご存知のように日本や工場進出で賑わっているアジア諸国が得意としている。しかしながらこの工程は、安値競争の激化で利益配分はジリ貧の状態である事が、昨今のわが国が直面している問題からも明らかである。そして最後の下流工程は、ブランド力を武器に製品を人々にアピールし購買力を高めるマーケット分野であり、この分野も欧米先進諸国が進んでいて、大きな利益配分となっている。

ここから云える事は我が日本国が今後生き延びる為には、これまで得意としてきた中流工程に留まることなく、その前後の上流工程や下流工程の分野にもっと知力を注がなければならないと云う事である。

 

それには掛け声だけでは駄目でその様な世界に通じる人材を生み出さなければならないし、その為には教育システムを変えなければならない。ノーベル賞はまさしくその様なユニークな発想で社会に貢献した人物が受賞しているが、日本人の受賞者の多くは米国で教育を受けた事は事実として明らかである。ところが、近年米国で理系の博士を取得する人数は、アジアではタイに次ぐ6位まで低下している。また彼らノーベル賞受賞者が日本の教育制度について、若手の活躍を阻害する封建的風土、未知のものに対する評価力の低さを口をそろえて指摘している。

 

歴史的に、日本の教育システムは物づくりに邁進している時代には、決められた枠内で定められた内容をピシッと丁寧に正確に作り上げる、また形作る能力については大いに効果があった。しかし新しいアイデアの創出に向かってはこれまでのそして今の教育ではマイナスのものでしかない。勝間和代氏によれば、日本の支配層はがり勉で与えられた事を粛々とこなすが、覇気がなくリスクを取ろうとするまでの勇気がない。同様に大企業の経営者は、選択肢を与えられたその中から選びはするが、ゼロベースでは自分の意見は言えないので求めないでくれ、という驚愕の事実がある。リスクリテラシーがない。結果的にリスクの回避が積み重なって、更に大きなリスクを負う羽目になる。現にわが国の多くの政策が大きな曲がり角に立っている。これらはガリ勉で成績優秀となったこれまでの人間が中央官僚となり、また大企業の経営者となって、今の日本を動かしている事に他ならない。

 

次に人間個人のあり方について見てみよう。

起業できる人間とはどういう人なのであろうか。「深い専門性と、イノベーションと企業家精神を持ち、異分野の人々と積極的に連携できる人」で、T型人間と云われている。Tの横棒が幅広い付き合い、そして縦棒がその深い専門性を表している。また受講メンバーからは、F型人間の紹介がありFと云う文字の中の横棒は同時に調整役にも優れた人間を表している。

 

アメリカではユニークな発想でベンチャー企業が多く生まれているが、特にシリコンバレーはその気風が強く常に繁栄している。その背景として、ビジネス文化に特徴がある。即ち、起業家は失敗を恐れないが、それはリスクを負うのは投資家だからと云う事。投資家は幾つかのベンチャー企業に投資するが、彼らは10件に一件でも成功すれば大きな富を得る事を知っているからである。投資家は、起業家の人間的魅力(クレディビリティ)に投資しているのである。そう云う事から新たな試みについての提案がなされている。顔が見えるところ(人)に投資しよう。自分が納得する事業には、口も金も出そう。ローリスクで一口10万円位拠出して明日のベンチャーを育成しようと。

 

日本の企業ではこれまで改善と云う言葉は多く使われていたが、創造と云う事は最近になってからではないかと思われる。そもそも改善と創造は大きく異なる事が次の例から明らかである。1011に増加する場合(これは定型的リーダーシップによる既存の枠組みでの改善)と、0を1にする場合(創造的リーダーシップにより、リスクを負っても無から有を生じる)では、前者は10%の増加率であるが、後者では無限大の増加率となる。

 

最後に守旧と創造と云う観点でイノベーションを観ている。創造と云ってもそれは人間が築いてきた文化がない処ではありえない、固有文化のある下地が新たな創造に寄与する事をノーベル賞受賞者を含む識者が唱えている。また、人はプロフェショナル性だけでなく、社会の一員としての権利と責任を有しそれを実行可能にするのは共通性や原則など、社会を結束させる何かが必要である。今変化の時代には「伝統」がその役割を果たし、伝統によって継続性が生まれる。即ち、質の高い市民教育と伝統の力が重要である、とブラウン大学学長等を歴任した現在カーネギー財団理事長であるヴァルタン・グレゴリアン博士等は指摘している。

また、変革を導入しても伝統に基づく社会の共通性や原則等がなければ過去との継続性が生まれない。同様な事をかのドラッカー博士も、海外からマネージメントなどの概念を輸入しても、自らの文化土壌で育てなければ成功しない、と云っている。これは現代中国のように、伝統はあっても時の政府により否定されてイデオロギーが支配する社会では安定的な発展は期待されず、50年毎に大混乱を起こしていると歴史的にも示しているとのことである。

 

今回の講演では、目からうろこの落ちるものが多くあった。特に、今の日本の教育制度がイノベーションをおこさせる人材を生む土壌の条件には全く適していない事、社会を結束させる心を育てる何かが教育現場はもとより家庭や地域社会から失せている事を改めて認識させられたものである。

 

また、NPO法人マイスターネットのワークショップの一環として、広く多くの人々がリーダーシップについて基本から学ぶことを目的とするリーダーシップ研修塾(仮称)開催の提案が講師からあり、皆の賛同を得た。これは、リーダーシップ研究大学(http://e-uls.org/courses/)で学位(修士、博士)を取得するための一助となる入門塾を目指すものである。

第42回