アウトサイド・インからインサイド・アウトへ

『7つの習慣』の著者コヴィーは、考え方の基本を「アウトサイド・インからインサイド・アウトへ」と変えなければならない(パラダイム・シフト)、と言う(コヴィー(1997)pp.45-47)。

 

アウトサイド・インとは、いろいろな問題の原因を周囲の人や環境のせいだとして(アウトサイド)、これらが解決することによって自分の問題は解決する(イン)、という考え。この考えに支配された人々は、被害者意識に悩み自由を束縛された不幸な人々であり、自分のうまく行かない状況の責任を周りの人や環境のせいにする人々である。

 

一方、インサイド・アウトとは、自分自身の内面(インサイド)を変えることにより、周囲に影響を波及する(アウト)、という考え。これは、人間の成長と発展を左右する自然の法則に基づき、上向きのらせん状に成長していく循環であり、次第に高まっていく責任感ある自立と効果的な相互依存に導く。

 

このように、『7つの習慣』では、『7つの習慣』では、アウトサイド・インからインサイド・アウトへと180度考え変えなければならない(パラダイム・シフト)というが、果たしてこれは可能なのだろうか。5つの例を示す。

 

その1

『社会起業家に学べ』の著者今一生は、社会起業家について以下のように述べる。

80年代のイギリスでは、サッチャー首相は、国の財政赤字をなくすために福祉に税金を投入しない方針を打ち出し、経済の立て直しに成功した。ところがその裏では、社会的弱者にしわ寄せが及び、この困った事態に立ちあがったのが社会起業家である(今(2008)p.14)。

「政治や行政に文句ばかり言ってデモ行進や集会を続けていても、ただ貧乏になるばかりで、そもそも議論やデモで社会が根本的に変革された歴史はない」ことに、多くの人々が気付いてきたことによる(今(2008)pp.19-20)。

これはまさしく、国(アウトサイド)に頼ることの無益に気づいた社会起業家は自分達の手で(イン)国家的な社会福祉の問題解決に取組む、という点で、インサイド・アウトと言える。

 

その2

京セラ創業者の稲森和夫さんが就職した碍子メーカーは赤字経営で、社内は会社への不満が強かった。そこで、稲森さんは会社に不満を持ち改善を求めるだけではダメだと、自分のいる研究部門だけは必死に頑張ろうと考えを改め、仲間とともに一生懸命研究に打ち込んだ。その結果、徐々に成果が上がり、それが京セラの創業につながった。

 稲盛和夫『正しい「哲学」持って努力を続けることでどんな困難も乗り越えられる』THE212017-5 p.10より

 

この例も、会社(アウトサイド)に不満を持つことから、自分のいる研究部門(イン)だけは必死に頑張ろうとする考えの転換に、アウトサイド・インからインサイド・アウトへのパラダイムシフトが見られる。

 

その3

福沢諭吉は明治7年(1874年)に『学問のすヽめ』で、 「我が国の文明を進めるためには、 人身に染み付いた気風を一掃しなければならない。それには、政府が政令を発っしても、誰かが説教をしても難しい。人の先頭に立って行動を起こし、国民が頼れる目標を掲げられる人物がいなければならない」と述べている(福澤(2011)p.40)。

 福澤諭吉(2011)福澤諭吉著作集 第3巻『学問のすヽめ』慶應義塾大学出版会㈱:東京より

これも、国が旗を振っても(アウトサイド)やれる訳ではなく、人の先頭に立って行動を起こせる人物(民間人)(イン)がやるしかない、という点で、インサイド・アウトの必要性を訴えている。

 

 その4

修身斉家 治国平天下(しゅうしん せいか ちこく へいてんか)

その意味は、コトバンクを引用する。

〔大学〕 天下を平らかに治めるには、まず自分のおこないを正しくし、次に家庭をととのえ、次に国を治めて次に天下を平らかにするような順序に従うべきである。儒教の基本的政治観。

大辞林 第三版

これも、天下国家を論じる(アウトサイド)前に、先ずは自分のこと(イン)をしっかりやりなさい、とインサイド・アウトの重要性を説いている。

その5

隗(かい)より始めよ

〔「戦国策燕策」にある郭隗かくかい故事。隗が燕の昭王に,賢臣求めるならまず自分のようなつまらない者を登用せよ,そうすれば賢臣次々に集まって来るだろうと言ったことから〕
遠大な事をするには,手近なことから始めよ。
転じて,事を始めるには,まず自分自身着手せよ。
Weblio辞書より

以上から、東洋では古くから、アウトサイド・インを戒め、インサイド・アウトの重要性を説いてきたことが分かる。

 

日本は、戦後欧米からいろいろな文化が輸入されてきたが、その中には今回のように古くから伝わる「日本の文化の焼き直し」も相当あるのではなかろうか。

 

これまでの説明は、ご納得いただけたでしょうか。

もう一度以下の自己診断をしてみませんか。あなたのアウトサイド・インからインサイド・アウトへの変化が確かめられる、と期待します。